沙巴体育投注_沙巴体育官网-在线app下载の13人 第六回 倉住先生

みなさんこんにちは。
まりもまりりんです。

気付けばもう12月。一年が過ぎるのは早いですね。
今年はどんな一年でしたか?

さて、今年一年、といえば(?)日本上代文学ご専門の倉住先生は、今年一年、学校業務を離れ、研究に専念する期間(サバティカル)にあたっていらっしゃいました。一年生のみなさんはお会いしたことがないかもしれませんね。

倉住先生は、柿本人麻呂の作品を中心に万葉集の表現研究をされています。
ひとつひとつの〈ことば〉に込められた〈こころ〉を読みとっていくことにご興味を持ち研究されているそうです。
万葉集と同時代の古事記?日本書紀?風土記なども、歴史書や地誌として捉えられがちですが、当時の社会制度や状況そして物語を伝えてくれる重要な文学作品であると考え研究対象としていらっしゃるそうです。

さて、卒論提出の12月は、論文指導で先生方瀕死の状態に追い込まれます。

もちろん研究でお忙しいことと存じますが、12月はゼミ指導のない倉住先生の番にしよう!と、まりりんひそかに、たくらんでおりました。
というわけで、倉住先生が偶然学校にいらっしゃったタイミングで伺ってまいりました。

―倉住先生は、文学の時代分野の中でなぜ上代を選ばれたのですか?また、大学時代の卒論はどんなテーマでしたか?

中学の国語の授業で「東の野にかぎろひの立つ見えてかえり見すれば月傾(かたぶ)きぬ」という柿本人麻呂の歌に出会いました。
この歌を知ってから、景色が鮮やかに見え人の心に手触りを感じて、世界が語りかけてきてくれたような気分になりました。
それ以来の万葉集との付き合いです。
卒業論文では「石見相聞歌」という妻との別れを詠んだ柿本人麻呂の歌を取り上げました。美しい海に囲まれた石見で過ごした妻との日々、でも帰京しなければならず、最後には、妻の姿を遮る山に「靡けこの山」と絶唱する歌です。「石見相聞歌」という一つのテーマでありながら、詩句が少しだけ異なる本文歌と或本歌という2つの作品があり、その複層性の魅力を考察しました。

―万葉集とは、中学生の時からのお付き合いだったのですね。

―倉住先生は、なぜ研究者の道を選ばれたのですか?もし、研究者?大学の先生以外だったら、どんなお仕事をしてみたいと思いますか?

やはり、中学生の頃、「古典を学ぶ人になりたい」と思いしました。自分も影響を受けた万葉集や長く伝わる古典には、世界を変える力があるかもしれない、その世界の謎を学んでみたいというようなきっかけだったと思います。
万葉集を学びたくて進学した大学では、学問的にも人としても敬愛する恩師と出会うことができました。その恩師が急逝し、呆然としていた頃、大妻に勤めることが決まりました。これからも、何とか生きていけるかも知れないと思いました。
研究者でないとしたら……あまりイメージが湧きませんが、万葉集の愛好者にはなっていたのかなと思います。

―やはり、万葉集と離れることはありえないのですね。

―先生が最近読んで面白かったおすすめの本を教えてください。

最近ではないですが『五色の舟』が面白かったです。津原泰水氏の幻想小説を近藤ようこ氏が漫画化した作品です。
近藤氏は古典文学や坂口安吾などの近代文学の作品を漫画化しています。その画風と独特の解釈がとても興味深いです。
松尾由美氏の作品もおすすめです。『九月の恋と出会うまで』は、2019年に映画化もされました。
「バルーン?タウンシリーズ」や「ハートブレイク?レストランシリーズ」などをひっそりと愛読してきました。「ひっそりと」と言ってしまえるほど、私の周りには読者がいません。
ふんわりとした語り口のSFですが、他者との関係やカルト宗教などの現代的問題におけるジェンダーや身体性を突き付ける作品が多いです。

―ひっそりと…。そうですね。どちらの作品も初めて伺いました。
さらに残念ながらすべて図書館には蔵書されていませんでした。読んでみたい学生さんはぜひ、図書館に購入希望図書として願い出てはいかがでしょうか。

―休日は何をして過ごすことが多いですか?

4歳のチョー活発男児と、公園、児童館、遊園地、ゲームセンターに出かける日々です。
美味しいお茶を飲みながらゆっくり本を読んだり、時間を忘れて研究に没頭する休日に憧れます!休日は、心も体もお財布もへとへとになります。
あと何年か後にはゆっくり過ごす休日も訪れるのでしょうか?

―小さなお子さんのいるご家庭ならではのお気持ちですね!
お子さんと一緒に過ごす時間も、ご自身の研究やのんびりした時間も、どちらも素敵です。その時々で、大事になさってください。

―倉住先生は、新海誠監督の作品『言の葉の庭』の製作の過程で万葉集研究者として協力されていらっしゃいましたが、当時のことで心に残るエピソードなどはありますか?

万葉集の恋とは〈孤悲〉=独りで悲しむ想い、について、新海監督がとても興味を持ってくれました。
〈孤悲〉は、『言の葉の庭』で描かれる2人の関係とリンクします。
小説版では、映画にはなかった、いろんな登場人物の物語が描かれ、その物語に合う歌を選びました。
選んでいくにつれて、その人の心情も、万葉集の歌もより、分かっていく手触りがありました。
ままならない状況の人物が多く、私も一緒に落ち込んだりしていました。
最新作『すずめの戸締まり』の件で、新海監督とお会いしましたが、以前と変わらず職人気質で、細やかな方でした。私も見るのが楽しみです!

―最新作、大ヒット上映中!ですよね。

『言の葉の庭』は2013年に製作された作品でしたので、もう10年近く前になるのですね。
作品の製作の中で、先生も同じように心の浮き沈みがおありだったとは。そのように製作に携わった人々の心が、作品の中に生きているからこそ、長い時間にわたって愛されていくのでしょう。
新海監督は、職人気質な方なのですね(笑)今でも交流なさっていらっしゃるご様子。日本文学?文化を大切に作品に落とし込まれている新海監督とは、きっとこれからも様々な形でお仕事されてゆくのでしょう。
先生方のこうしたご活躍も、まりりんは楽しみです。

  この部屋にも、小井土先生からの頂き物が…

―万葉集の中で倉住先生が好きな歌を3つ教えてください。

1. 東の野にかぎろひの立つ見えてかえり見すれば月傾(かたぶ)きぬ(巻1?48番歌)一つは、私の原点である歌です。
東の野を見るとかぎろひが立つのが見え、振り返ると月が傾いていた、という歌です。「かぎろひ」には諸説ありますが、陽光とすると、太陽が昇り始め月が沈んでいく朝の情景が浮かび上がります。
この歌が詠まれた阿騎野では「かぎろひを見る会」が開催されていて、現在でもこの歌が愛されていることが分かります。

2.天(あめ)の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠(かく)る見ゆ(巻7?1068番歌)
人麻呂歌集の歌で、空を海、雲を波、月を船、星を林に喩え、美しい夜空を描きます。漢詩にも出典があり、地域や時代を越えて、夜空を見上げ、物語を見出す姿が伝わってきます。

3.経(たて)もなく緯(ぬき)も定めず少女(をとめ)らが織れる黄葉(もみぢ)に霜な降りそね(巻8?1512番歌)
政争に巻き込まれ処刑されていった大津皇子の歌です。少女が経糸も横糸も決めずに自由に織り上げた錦の織物である紅葉を枯らさないように、霜よ降りるなと歌います。
自由を愛し文学の才能が豊かだったとされる大津皇子の人柄が伝わる作品です。

―三つ、それぞれの情景が美しく、また人の心の動きが鮮やかな、いい歌ですね。阿騎野という場所は、現在の宇陀市大宇陀迫間?本郷一帯、かぎろひの丘万葉公園の辺りと考えられているそうです。
先生のお好きな一番目の歌の碑も、公園にあるようです。

万葉集には、こんな歌があるのか…!と、驚きますね。

万葉集約4500首の中で3つ、というのは選抜がむずかしかったと思います。教えてくださってありがとうございます!

奈良でのワークショップ開催や、レリーフ作家さんとのコラボで、万葉集の歌を先生が解釈しそこからイメージした作品の展覧会をされていらっしゃったこともありました。
多岐にわたる万葉集の発展、「世界を変える力」が、本当にあるように感じられてきます。

 

倉住先生、ありがとうございました!